成犬となった犬の8割が患っていると言われている歯周病。一度なってしまうと治療しなければ治すことができず、放置しているとどんどん悪化してしまう恐ろしい疾患です。歯周病を予防するには毎日のオーラルケアが重要なのですが、飼い主の中には愛犬が歯磨きを嫌がるからとケアを諦めてしまう人も少なくありません。
今回はそんな人たちのために、歯周病のリスクやもし患ったときの治療法、そして犬が抵抗せずに楽しく歯磨きができるようになるまでの訓練方法について解説していきます。
目次
意外と知られていない犬の歯周病の怖さ
私たち人間にとっても比較的みじかな部類に入る歯周病。しかし、みじかであるがゆえにその恐ろしさをいまいち実感できない人も多く、そのせいで愛犬の大切な歯が危険に晒されてしまうことも……。
まずは歯周病の原因や症状、治療法について見ていきましょう。
歯周病の基礎知識
歯周病とは、口内に潜む細菌が歯ぐきや歯を支える骨を溶かす炎症性疾患と呼ばれる病気です。元々人間やその他の動物の口の中には数百個もの細菌が住んでいますが、基本的には悪さをすることはありません。ではなぜ歯周病になってしまうのでしょうか?
まず、歯磨きを怠ったり、糖質を過剰に摂取すると細菌はそれを糧にして活動が活発化します。その際に粘着性のある物質を形成して歯周ポケットに潜み、歯周病の元となる歯周病菌を増殖させて毒素を放出するのです。この粘着物質を歯垢、又はプラークと呼びます。
歯垢はうがいだけでは洗い流せない上に、唾液の中に含まれるカルシウムやリン酸塩を吸収して歯石という物質へと変化します。歯石はうがいどころか歯磨きでも落とせず、動物病院で歯石除去をお願いするしかありません。
特に犬は口内のPhが【アルカリ性】に寄っているため、人間よりも歯垢が歯石に変化するのが早いです。
歯周病の主な症状とサイン
自分の歯であれば、歯垢は粘着性があるため歯を触ることで簡単に歯周病を察知できますが、犬の場合はそうはいきません。そのため基本的に飼い主が発見できる歯周病のサインは【口臭】か【歯石の目視】であることがほとんどです。しかし、この状態の時には既にかなり歯周病が進行していることも多いため、すぐに病院で診察してもらうようにしましょう。
犬が歯周病を患うと、歯ぐきが炎症したり出血するようになります。また、歯を支える骨が溶かされることで歯がぐらつくようになり、痛みも生じるため口に触られるのを嫌がってしまいます。歯周病が徐々に進行していくと、やがて出血した歯ぐきから細菌が体内に入り込み、敗血症や肺炎などの病気を起こす【菌血症】という状態になっていきます。
また、細菌が顎の下の骨を溶かしていき、骨が脆くなると軽い衝撃で骨折してしまうケースもあり、特に口が小さい小型犬によく見られます。
歯周病の治療法
歯周病は初期段階ではそこまで重い症状もなく、【歯石除去】と【投薬】で完治する事が多いです。この時の歯石除去は通常のケア目的とは違い、麻酔を使用して歯ぐきの裏まで徹底的に歯石を取り除くことになります。当然、その分時間もかかる上に犬の状態によっては麻酔の負担が出てしまうこともあるため、充分な時間を確保しておいた方が良いでしょう。投薬は治療後の炎症や痛みを抑え、口内の細菌バランスを整える際に用いられます。
しかし、歯周病がかなり進行してしまい、歯の温存が困難だと判断された場合は抜歯をする事もあります。もし永久歯を抜いてしまうと二度と元には戻りません。そして、歯周病はそのまま放置して治る病気ではなく、むしろどんどん悪化していく病気です。
愛犬の歯の健康を考えるなら、早期発見・早期治療が鉄則。日ごろから口内ケアをきちんと行い、定期的に動物病院で歯石除去をお願いしましょう。
犬が抵抗しない楽しい歯磨き
歯周病の危険性は分かっていても、愛犬が歯磨きをさせてくれなかったらケアのしようがありません。大切な歯を守るためにも、【犬が嫌がらない歯磨き】の方法を学ぶ必要があります。
ここでは子犬の時から歯磨きをした方が良い理由と、実際に歯磨きができるまでの訓練方法について解説します。
子犬の時から歯磨きをさせた方がいい?
犬は初めから歯が生えそろっているわけではなく、私たちと同じように乳歯から生え始め、そして永久歯へと生え変わっていきます。時期はある程度個体差はあるものの、概ね1歳になるころには永久歯が全て揃うでしょう。では、歯磨きは一体どのタイミングで開始した方が良いでしょうか?
一見すると永久歯が揃うタイミングで歯磨きをさせた方が良さそうですが、実は歯磨き訓練自体は乳歯が生え始めた段階から教えるべき。というのも、歯磨き訓練の目的は【歯磨き慣れてもらうため】であり、そして慣れてもらうには子犬の頃が一番スムーズなのです。
成犬になってからも訓練はできますが、今まで経験したことのない事を新たに覚えさせようとすると中々難しく、下手をすると犬にとっても飼い主にとってもストレスになりかねません。歯磨きは小さいころからゆっくりと慣れてもらうのが一番です。
愛犬が楽しく歯磨きできるまで~スキンシップ編~
最初から歯ブラシで歯磨きさせられたら一番良いのですが、まずほとんどの犬は抵抗したり嫌がってしまうと思います。犬からしてみれば、いきなり棒状のものを口に突っ込まれているわけですから、抵抗してしまうのも無理はありません。最悪、歯磨き嫌いになってしまう可能性もあります。
まずは口に触れられることに慣れてもらいましょう。スキンシップの際にご褒美を与えながら口元を触っていくのです。最初は嫌がってそっぽを向いてしまいますが、次第に慣れてスキンシップの一環として受け入れてくれるようになっていきます。
そうしたら次は歯を軽く触っていきます。最初は犬歯や前歯など触りやすいところから、慣れてきたら奥歯まで触れてください。慣れてきたら、この段階で歯磨きシートを指に巻いて簡単な歯磨きをしておくと、歯ブラシに慣れるまでの繋ぎになります。
愛犬が楽しく歯磨きできるまで~歯磨き編~
歯に触っても抵抗しなくなったら、いよいよ歯ブラシを使った歯磨きをしていきます。
今までと同じように、犬歯や前歯から軽く磨いていき、慣れてきたら奥歯を磨くように意識しましょう。ただし、犬が抵抗しようとしたらすぐに中断してください。始めのうちは一気に全部磨こうとせずに、日を跨いでも大丈夫です。犬が慣れてきたら、徐々に磨く範囲を拡大させていきましょう。
歯磨きの際は歯ブラシを鉛筆を持つように握り、歯と歯ぐきに対して斜め45度程度に傾けてください。イメージとしては、歯と歯ぐきの隙間から歯垢を掻き出すような感じです。前項で解説したように、歯周ポケットに細菌が潜んでいるため、歯の表面だけを磨いても意味はありません。しっかりと隠れている歯垢も取り除いていきましょう。
歯磨きの頻度はどれくらいが理想?
子犬の時はまだ口内もそこまで汚れておらず、まず歯周病になることはほとんどありません。歯磨きに慣れてもらうことが先決ですので、そこまで頻度は意識しなくても大丈夫です。あせらずゆっくりと訓練していきましょう。また、乳歯から永久歯へと生え変わる時期は歯ぐきが腫れることもあり、その際は無理な訓練は避けてください。
成犬になると歯磨きは毎日行うのが理想です。最初に説明したように、犬の口内はアルカリ性のため歯垢が歯石になりやすく、3日もあれば歯石が出来上がると言われています。歯石になってしまうと個人ではどうしようもなく、動物病院に行くしかないため、なるべく歯垢の段階で取り除けるのがベスト。
それでも汚れは溜まっていくものなので、定期的に動物病院で検査をしてもらいましょう。
愛犬の歯を守るためにも、歯磨きはしっかりと!
歯周病は口内で起きる病気ではありますが、その影響は身体と心にまで広がっていく病気でもあります。痛みでご飯が食べられなくなればストレスが溜まりますし、重症化したら血液中にまで細菌が侵入して悪さをしてきます。そして、歯周病は治療しなければ治りません。
いつか、今度と機会を逃していくと、最悪の場合は抜歯しないと治せないケースも考えられます。永久歯は二度とは生えてこない大切な歯です。愛犬の歯と健康を守るために、子犬の時からしっかりと歯磨きをしていきましょう!