ペットの分骨は縁起が悪い?仏教の歴史から見る真相と分骨の方法

空前のペットブーム以降、ペットを家族として迎え、お別れの際もきちんと火葬して弔うのが当たり前になってきました。ところで、火葬した後のご遺骨を一部持ち帰る分骨という行為、皆様はどう思っていますか?実はネットで分骨を検索しようとすると、【分骨 よくない】というような関連キーワードがまっさきに出てきます。果たしてこれは本当なのでしょうか?

今回は分骨の歴史から見た【本当に分骨はよくないことなのか】と、分骨のタイミングや選ぶ部位のおすすめについて解説していきます。

目次

分骨ってよくないこと?

分骨は仏教の歴史といっても過言ではなく、お墓の起源は分骨されたお釈迦様のご遺骨を埋葬されたところから来ています。そんな分骨がなぜよくないことだと言われているのでしょう?

ここでは分骨の歴史と本当によくないことなのかについて解説します。

分骨の歴史

分骨の歴史は仏教の草創期にまで遡ります。仏教の開祖であるお釈迦様が※1した後、ご遺体が火葬されてご遺骨は8等分に分けられて各地に奉納されました。その後200年ほど経ち、インドのアショーカ王によってお骨が粉砕して小分けにされ、周辺国含めて8万ほどの寺院に再配布されたそうです。

このご遺骨を仏舎利と呼び、日本でも愛知県名古屋市にある覚王山日泰寺に一部納められています。因みに卒塔婆(そとば)の起源もここにあり、仏舎利を納める塔であるストゥーパから来ています。

つまり分骨とはお釈迦様の死を悲しみ、その徳を偲んだ人々がお骨を分けて身近で祀るために行われた極めて神聖な行為だったというわけですね。

※1 煩悩が消え去り、悟りに至った状態のことで、主に釈迦や高僧の死を指す。

分骨は縁起が悪い?

インターネットで分骨を検索しようとすると、関連キーワードに【分骨 よくない】【分骨 縁起が悪い】などネガティブ寄りなワードが複数見られます。しかし、先述したように仏教の開祖のお釈迦様の入滅から分骨は始まり、その行為はひとえに仏教徒たちの信仰心が形となったものとも言えます。なぜこのような俗説が広まったのでしょうか?

おそらくは【五体満足ではないと天国へはいけない】【遺体を分けるとバチが当たる】というようなマイナスイメージがあるからでしょう。特に昔は何かあれば妖怪や幽霊の仕業だとされていましたし、こういった遺体に手を加えることを忌避としていた人がいてもおかしくはありません。しかし、これは火葬を前提とした場合には無理がある考えです。

火葬は高火力で行われる都合上、人体骨格模型のように完璧な状態にはなりません。つまり、始めから五体満足にはならないのです。それにこの考えでは、四肢欠損のある人や動物は天国へいけなくなってしまいます。それはあまりに理不尽な話ですよね?

俗説やマイナスイメージに囚われてはいけません。難しく考えずに【ペットともう少し一緒にいたい】という気持ちがあれば分骨する、それだけで大丈夫ですよ。

仏教ではお骨は重要ではない?

ここまでお話しておいて……と思われるかもしれませんが、実は仏教ではお骨というよりもご遺体はさほど重要視されていません。もちろんお釈迦様のような特別なお方は例外ですが、ほとんどの場合はただの魂の抜け殻としてしか扱われないのです。仏教の始まりの地であるインドですら、ガンジス川に遺体を投げていますしね。

仏教において重要なのは魂であり、彼らの行く先は浄土です。遺体は抜け殻、遺骨は生きた証に過ぎず、そこに魂はありません。因みに仏教では四十九日という用語がありますが、これは生前の行いによって極楽浄土へ行けるかどうか裁判する最後の日であるとされています。その時まで故人に祈りを捧げる期間を【忌中】と呼び、故人が極楽浄土に行けるように祈る事で善行を重ねる事ができるのです。この期間でもご遺骨に魂が留まる事はなく、お墓やあの世とこの世を行き来していると言われています。

分骨のタイミングと選ぶ部位

分骨は敬虔な仏教徒達が、お釈迦様を偲んで行われた大切な儀式だったわけですね。さてそんな分骨ですが、いざ自分もとなると【どのタイミングでやればいいのか】【分骨するならどの部位がいいのか】に迷う人も多いはず。

ここでは分骨するタイミングや定番の部位について解説します。

分骨に最適なタイミング

結論から言ってしまえば、初めから分骨をご希望の方は【拾骨時】にお骨を分けることをおすすめします。もちろん、納骨後や骨壷に納めた後でも分けることはできますが、下記の理由によって、拾骨時よりも手間やお金、そして気持ち的にも負担がかかってしまいます。

・納骨堂からご遺骨を再度取り出すには分骨証明書が必要(有料)

・一度骨壷に納めたお骨の中から希望の部位を取り出すのは困難

・ちゃんと供養した後にまた取り出すのは精神的な負担も大きい

以上の点から、殆どの場合は拾骨時に分骨をした方が良いです。もしその時までに分骨用の骨壷を用意できなかったとしても、ジップロックなどの密封できる袋であれば一時的に代用できます。お骨に酸素が当たり続けなければいいわけですので、一度袋に入れて帰宅してから骨壷に納めても問題ありません。

分骨するお骨の選び方

せっかく大切なご遺骨を分骨するわけですから、なるべくなら縁起のよい部位を手元に置いておきたいですよね。分骨に明確なルール等はありませんが、定番なのは【喉仏】と呼ばれる部位です。ここは名前の通り仏様が座禅しているように見えることから、骨壷に納める時も一番上に持っていきます。

「でも喉仏って男の人にしかないんじゃ?」と思うかもしれませんが、実は火葬された後のご遺骨における喉仏は喉の前側にある突起した部分ではありません。首の骨のうち、上から2番目にある軸椎を指します。生前の喉仏は喉頭隆起という軟骨の部分のことで、火葬した時に焼けてしまいます。この軸椎は犬や猫はもちろん、小鳥などの小動物にもありますよ。

他にも、爪や尻尾など生前の印象的だった場所やその付近のお骨を分けるのもおすすめ。鳥類の場合は羽を持ち帰る人も多いですよ。ただし、ペットのサイズや火葬炉の温度によっては焼失してしまう部位もあることだけ注意。爪や羽は火葬する前に分けておきましょう

分骨したお骨を納める容器の選び方

分骨したお骨を手元供養する場合は骨壷に納めるのが通例でしたが、近年は容器もバリエーションが増えてきています。通常の骨壷タイプはもちろん、ネックレスやキーホルダーなどカジュアルに身につけられるタイプもあります。

アクセサリーとして身につけられるものはおしゃれな物も多く、傍から見ればお骨が入っているとは思えないため普段使いとしても使えます。ただし、お骨に空気が触れてはいけませんので、選ぶ際は【密封性】【耐久性】【錆びない】という点を意識しましょう。

分けたお骨も最終的には供養をしよう

分骨されたお骨を手元供養されている方は、最後にはちゃんと散骨や納骨等で供養してあげましょう。いつまでも一緒にいられるということは、いつまでもペットの死を引きずってしまうのと同義です。ペットロスを加速させてしまう要因にもなりかねませんし、そのせいで日常生活に支障をきたすことはきっとペットも望んではいないでしょう。

もちろんずっと手元供養するのも選択肢の一つではありますし、ご自宅でずっと保管し続けても法律上は問題ありません。しかし、祀ることでしか前に進めない人がいるのも事実です。更に言えば、手元供養はご家族が同意していない限り【自分が元気であること】が大前提にあります。管理する人がいないと、お骨は居場所を失いますから。

手元供養も含めて供養の方法が多様化してきた今だからこそ、将来の自分や旅立ったペットの事を考えてご家族の方と話し合いましょう。

大切なのは飼い主様ご本人の意思

仏教は世界三大宗教にも数えられるほど規模の大きな宗教ですし、もしかしたら本当に分骨を忌避する歴史があったかもしれません。しかし、少なくても調べる限りはそういった説はないですし、なにより現代の日本においては分骨は至極当たり前のもの。特に関西では古くからご遺骨を分骨してきました。

ペットの火葬や供養はまだまだ歴史が浅く、ルールやマナーがまだ定まりきっていません。そんな中、【分骨は縁起がよくない】【天国にいけなくなる】というような俗説が広まってしまえば、いずれ本当にそれが真実となってしまうでしょう。それはあまりに悲しいですよね。

大切なのは自分がどうしたいかです。飼い主として、ペットの家族として、自分が一番納得できる方法を模索してください。

天国への扉コラム